2012年4月1日日曜日

相田家のグッドバイ Running in the Blood


 森博嗣氏の2012年最初の新刊。新書やエッセイ、文庫化などを除けは10ヵ月ぶりの作品である。
 ここ数年、同氏は代名詞であったミステリィ小説ではなく、どちらかといえば純文学のようなテイストの作品を刊行しているように感じられていた。そして、今回もその傾向と同じものとなっている。ちなみに、「純文学のような」と書いたのは、私自身が純文学というものをよく分かっていないからだ。
 この作品は、主に主人公の両親、そして彼らが住んでいた家を軸として描かれていた話である。これを読んでいる最中も読み終えた後も個人的には悲しい気持ちになった。
 それはそうだ。なにせタイトルにもある通りの内容なのだから、目に見えて明るく楽しい終わり方があると考える方が少ないだろう。
 だが、本当はそんな表面的な理由ではなく、もっと別の部分から感じ取れるものがあった。それは予感というより、再度確認できた事柄と言って良いだろう。
 自分はどちらかといえば悲しい話は好きな方だと自覚しているし、この話はこれまでの森博嗣作品をよく知る人であればあるほどよりよく楽しめる内容になっているのではないかとも思っている。ならどうして悲しいのかというと、このような作品が出て来たことが悲しい。正確には残念であり、また寂しいという気持ちでいっぱいである。
 実はこの気持ちは、以前「喜嶋先生の静かな世界」という作品が出たときも微かに感じていた。
 ただ「喜嶋先生~」は随分前に発表された作品の長編化だったので、まだ自分の中で別の解釈をさせて納得することができたが、今度ばかりは違う。長年森博嗣氏のファンをしていた方々ならば、もしかしたらこの感覚が分かるのかもしれない。
「相田家のグッドバイ」はある家族の始まりから終わりまでを綴った作品である。
著者は何を思ってこの作品を書くことを決めたのだろうか。それを想像するとやはり私は寂しくなる。